制度全般についての思惑

現在のところ、スウェーデンでも専門家のあいだには社会保障制度の根本的な改革が必要だという危機感がみられるが、一般の人々のあいたでは、社会保障制度の改革が必要だ、という認識は得られていないようだ。これは自分個人の利益からすれば、当然ともいえる心情だろうが、今までスウェーデンで行なわれてきた「普遍的福祉政策」にたいする支持が圧倒的である。国家財政の赤字対策として、近年実施されているリフォーム(改革)には批判的だ。

さて、行政側である保健福祉庁では、一九九二年のエーテル改革によって、社会的入院の解消、介護の質の向上などのメリットをあげている。ところが、高齢者を医師が診察する機会の減少冲高齢者ケアの非効率などの問題が残った。高齢者ケアの水準を保つだけの予算を確保するのは、ほとんど実現不可能なので、各コミューンで思い切った改革が必要だという。たとえば、サービスの切り下げ、自己負担の増加、サービスの集中といった方法である。

財政を握る大蔵省では、公共部門の財政赤字をゼロにしたい意向だが、これは一九九五年にGDP比で約八パーセントにもなっている。そもそも社民党支持者に社会保障削減の理解を求めることは非常にむずかしいのは、容易に想像のつく話だ。介護や教育についてはなるべく予算のカットを行なわず、社会保険を中心に予算の削減をする傾向にある。

コミューン連合会によれば、保健福祉サービスの分野では、自己負担の増加や生活支援のサービスが介護サービスへと集中する傾向にあるが、マスコミで伝えられているほど、国民は不満をもっていないという。むしろ、ほとんどの国民が満足しているのだそうだ。

国と地方の出資による医療経済を専門とするシンクタンクのSPRIでは、一般国民は医療においてこれ以上の予算削減は無理なので、むしろ税金をふやしたほうがよい、という意見が強いと分析している。というのも一九九〇年から一九九五年にかけて四パーセントの予算削減が行なわれ、一九九六年から二〇〇〇年にかけて実質五パーセントの削減が行なわれる見通しだからだ。一方、労働組合では当然ながら従来の「普遍的福祉政策」や大部分の公的保障を維持すべきだ、と考えている。根本的な社会保障改革には反対だが、システムの改善は重要だという。労組にとつて最大の問題はいうまでもなく、高い失業率である。