近い将来起こるべき消費者自身の欲求の変化

人間は「時代精神」の中で生き、ごく少数の限られた人だけが「時代」の壁を超えられるという。二一世紀の消費者行動を考える際には、これまでの歴史的な社会・経済の動きを大雑把に鳥瞰しておくことは重要である。消費行動の変化は人間が中心であるために、その変化は、大きな歴史の流れの中で比較的安定的にとらえられるからである。

戦前の全体主義と民主主義の対立の時代が終り、戦後の冷戦構造をもたらした資本主義と共産主義の対立の時代はベルリンの壁の崩壊で一応の決着をつけた。今後は地域的な対立、民族間、宗教間の対立というような、各主体のアイデンテゴアイーを求めた対立の世界に移行しつつある。戦後の経済成長によって、日本国内においても「モノ」主体の価値観から「ヒト」、「質」、「国際化」という流れに移行し、これからは「国際基準」や「情報化」といった言葉がキー・ワードになってくる。

二一世紀の消費者行動を考える際には、このように世界史の流れと戦後の国内経済の流れの両方の流れを踏まえて考える必要がある。そして、私達は二一世紀の消費者行動を考える際の前提条件として、二一世紀の日本の消費者を取りまく世界的な政治・社会・経済的な環境が「価値観の多様化」と「国際基準」であるということを念頭におかなければならないだろう。

次に、近い将来起こるべき消費者自身の欲求の変化と、消費者を取りまく制約条件について考えてみよう。従来の消費者を取りまく制約条件としては、主として所得制約が大きなウェイトを持っていた。つまり、消費者が自分白身の無限の欲望を満足させるためには、多量の商品・サービスを消費することである。その際には所得だけが制約となって限られた量しか消費ができなかった。

二一世紀の消費行動を考える際の与件としては「高齢化」という条件を抜きにしては考えられず、所得制約以外の制約も顕在化する。例えば所得制約以外に住宅問題や高齢者介護に関する幾つかの数量・空間制約、ゴミ問題や大気汚染などの環境制約等である。これら新しい消費者を取りまく制約は戦後五〇年の経済成長の結果であり、必然的な帰結でもある。