八万人も集まる社交の場

これは果たして本当だといえるだろうか。気分転換のため、六月初めの好天に恵まれた週末、私はイングランドウェールズの国境地帯を訪れた。その場所は、美しいワイ川が貫流している、ヘイーオンーワイ(Fy-On-Wye)という小さな町である。三十四年前、この町でリチャードーブースという情熱的な人物が、一部荒廃しか城の中に古本屋を開き、そこで努力を重ねて、より大きな規模に拡張したのである。彼の精力的な活動によって、ヘイーオンーワイは、あらゆる種の古本を扱うセンターとして有名になり、他の多くの業者もここに店舗を構えるようになった。

さらに、ここが笛昆精の町として名を馳せたことから、年一回の書籍祭りが開催されるようになった。これは、「ヘイーフェスティバル」と呼ばれ、毎年五月下旬から六月初めにかけて、二週間にわたって開かれる。書籍祭りというと、日本のお祭りにつきものの音楽や踊り、派手な衣装にお酒といった楽しみはないように聞こえるかもしれないが、参加者は座りながら、本について語り合うことが主である。

さらに現今の”ダミングーダウン万の時代では、そのような行事に参加するのは少人数だと思われるかもしれない。ところがそれは間違いで、二〇〇六年の祭りには、八万人以上が参加したのである。八万人の参加者は実際にはそこで音楽やダンス、あるいはお酒もたしなむこともできる。というのは、書籍祭りのほかに、コンサートやサーカスが同時に開催され、英国風やウェールズ風のパブ(人衆消場)が無数にあるからだ。

ヘイーフェスティバルは、単に知的な集まりであるだけでなく、社会的な行事にもなっている。しかしながら、その中心的な呼び物になっているのは古跡であり、とりわけその作昔なのである。参加者は作者の講演を聴いたり、彼らと討論を交わすことができる。その作品も哲学から園芸、それに外交問題やスリラー小説、さらに歴史や科学フィクションに至るまで、実に広範で多岐にわたっている。

しかしこのヘイーフェスティバルは、ことイギリスに関する限り、なんら特別なものではないのだ。このイベントが成功を収めてから、過去約ト年問、丈学に関する多くのフェスティバルが、英国中の他の都市や町で開かれるようになったのである。たとえば、バース、オックスフォード、チェルトナム、アルデバラ、それにエディンバラといった都市である。アルデバラは、イギリスの東海岸に面し、他に人規模なクラシック音楽祭を開催しており、エディンバラは、スコットランドの酋祁で、演劇祭も催している。外国でもこのような催しが行われているが、これほど人きな規模ではない。