地球上の炭素循環

一九八七年、カナダのモントリオールで国際会議が開かれて、フロンガスの製造、使用を二十世紀のおわりまでに全面的に禁止するという決議が採択されました。最近、フロンガスの代替物質が開発されて、廃止時期をはやめようとする動きが現実のものとなってきました。しかし、これまでに大気中に放出されたフロンガスは、今後一〇〇年間にわたって大気中に残存するわけですから、オゾン層に対する危険は、いぜんとして深刻です。TIPCCの報告によると、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの放出量はほぼ前頁の表の通りです。括弧内の数字は、その影響が一〇〇年間続いたときのそれぞれのガスの温室効果全体に対する割合を示したものです。

地球温暖化を考えるさい、大気中の二酸化炭素が重要な役割をはたすことをみてきました。二酸化炭素は、動植物の吸収、有機物の燃焼などによって大気中に放出されます。と同時に、大気の二酸化炭素は、植物の光合成によって、酸素と炭水化物有機物にその姿を変えてゆきます。ここで、二酸化炭素や炭水化物の成分である炭素がどのようにして、地球上を循環しているかについて、お話したいと思います。

地球上には、三つの大きな炭素の貯蔵庫があります。大気圏、海洋圏、陸上生物圏です。炭素は、二酸化炭素、炭酸塩、有機物などのかたちで、この三つの貯蔵庫に貯えられ、その間を循環しています。大気圏には炭素が二酸化炭素のかたちで、七五〇〇億トン(三五〇ppm)含まれています。前にお話しましたように、産業革命以前十八世紀のなか頃までは、大気中の二叢化炭素は六〇〇〇億トン(二八〇ppm)だったと推計されていますから、この二〇〇年ほどの間に二五%もふえたことになります。それは大部分、化石燃料の燃焼と熱帯雨林の伐採とによるものであることはすでにお話したとおりです。

海洋圏というのは、海面から七五メートル程度までの深さの海洋を指します。より正確には、海洋表層圏といって、約一兆トンの炭素が、二酸化炭素、重炭酸イオン、炭酸イオンのかたちで溶けています。海洋表層圏よりも深い海洋中・深層圏には、膨大な量に上る炭素が貯蔵されています。その量は三八兆トンと推計されています。世界の海洋をならすとその平均の深さは三八〇〇メートルに達しますが、全体で四〇兆トン近い炭素が貯蔵されることになります。

じつに大気圏の五〇倍に当たります。しかし海洋には、七五メートルから一〇〇メートルほどの深さのところに温度躍層とよばれる分離帯があって、温度が急に下がります。この分離帯によって、海洋表層部ともっと深いところがはっきり分かれています。海洋表層部と大気圏の間では、炭素の循環が、数十年から百年ぐらいの時間でおこなわれていますが、海の深いところとの間の炭素の循環は、何百年から何千年もかかります。