ファンドマネージャーの犯罪

誰が市場を守るのか。投資家の保護を誰が考えるのか、がはっきりしないのだ。「自己責任」という言葉はよい響きを持つが、市場のルールと倫理性、さらには論理性がきっちりと確立した上での「自己責任」である。ナスダックージャパンもマザーズも誰が最終責任を取るのかという、市場の最低のルールさえはっきりしない。「主婦がパチンコ屋で一時間に一万円損をするのも結局は自己責任です。ナスダックジャパンも同じことなんです」孫の周辺にはこう堂々と言ってのける、低俗な人がいるが、こうした発想をする人々に新興市場の運営を任せておいてはいけない。

市場に正規のルールがない以上、投資家は反乱を起こすしかない。ソフトバンクグループで、米国の投信評価会社との合弁会社モーニングスター会長の北尾吉孝ソフトバンク取締役)は、二〇〇〇年七月十九日、同社の六月中間決算の発表の席上で「他市場にも重複公開を検討している」と爆弾発言をした。「投資家のことを考えれば、(ナスダックージャパン以外の)市場で公開するのも一つの道」というのがその理由だ。北尾が社長を務めるソフトバンクファイナンスグループ各社についても「ナスダックージャパン以外の市場で公開することも充分にあり得る」とした。北尾の、ソフトバンクの孫離れが決定的となった瞬間だ。

二〇〇〇年七月二十六日にマザーズに新規公開した、まんが古書販売のまんだらけは上場四日目にして公開価格(百二十五万円、額面は五万円)から六割近く下げた。八月四日の終り値は四十五万円だ。下落率は六四%に達している。マザーズ、ナスダックージャパンと店頭市場の三市場で、公開価格が一千万円を上回った「八ケタ銘柄」はシーアイエス楽天サイバーエージェント、クレイフィッシュ、インターネット総合研究所と五社あったが、いずれも株価は大幅に下落している。楽天を除くとほぼ全滅の惨状である。

新規公開ブームは完全に反省期に入った。ネットバブルの崩壊が本格化してきた。九九年来、市場の資金を一手に集めてきたネット関連株の下落が止まらない。ソフトバンクの株価は十九万八千円から株式分割後の安値、七千八百二十円(八月四日終り値)に沈んだ。光通信は二十四万一千円から三千六百円(同七月七日)と九九%減である。時価総額でベスト10にそろって進出した両社は一瞬にして圏外に去った。

ファンドマネージャーという手合が新興市場に大きな害をなしている、との批判が強い。「はっきり言って犯罪的だ」と言い切るベンチャー企業の社長もいる。ジャーディンーフレミング投信で史上最高の高配当を達成したことから、カリスマファンドマネージャーの異名を取る藤野英人(現・ゴールドマンサックス投信のバイスープレジデントポートフォリオマネージャーが九九年に出版した『トップファンドマネジャーの明快投資戦略』の光通信のページをめくってみよう。