マザーズの空騒ぎ

ネットバブルに踊った起業家の多くは「情報を提供する時は、株主、投資家すべてに平等でなければならない」という大原則を理解していない。「日経と外資系証券会社のアナリストとベンチャー・ファンドが三位一体となってネット株を煽った」(前出、財閥系企業の会長)とい う指摘に、報道する側、リポートする側はどう答えるのか。経済ジャーナリズム(もしそういうものがあればの話だが)はジャーナリズムとしての本来の機能を十分に果たしてきたのであろうか。彼等の責任は重い。「光通信はとんでもない会社だ」と日頃は言っていながら、記事 を書く時はもろ手を上げて礼賛してきたではないか。

証券会社のアナリストがソフトバンク光通信を批判すると「我々の息のかかった企業が株式を公開する際に、あなたの会社は割を食いますよ。こんなひとりよがりのリポートを出す証券会社とはお付き合いしかねますな」と言われた。「アナリストに苦言を呈するだけならまだかわいいが、トップがじきじきに役員に『○○が書いたレポートをじっくりお読みになった方がいい。オタクは勉強不足ですな』と電話を掛けてくる。幹事証券から外すぞと、はっきり口に出すこともあるが、多くのケースでは言外ににおわす。こうなると始末が悪い。しかも、こういったクレームは絶対にメールではこない。社長が自分で電話を掛けてきて、激しい口調で なじるのだ」(良心的だと自他ともに認めているアナリストの一人)。

ソフトバンク光通信の株価が暴落したことで、心ある証券アナリスト達は内心ほっとしているというのだ。もう無理に推奨する必要がなくなったからだと言うのだが、アナリスト達は自分が担っている役割の重要さに、もっと早く気づくべきだった。米国で株式を公開している企業の代表権を持った役員が「事実と異なる数字」を公表したとしよう。その会社も役員本人も二度と立ち上がれないようになる。先でくわしく述べた重田の「嘘の好業績発表」は東京マーケットでは株価の崩落だけで済んでいるが、米国ならそんな軽い処罰では済まないのだ。ニューヨーク市場だったら、重田は当然、辞任、光通信上場廃止だ。

一九九九年十二月、東京証券取引所に、ベンチャー企業のための新市場、マザーズが開設された。マザーズの開設が、燃えさかるネット株人気の火に油を注ぐ結果になったことは確かだ。しかし、半年も経たないうちに株価は軒並み大暴落し、「マザーズは空騒ぎだった」ことをマザーズに上場した企業のトップも投資家も思い知らされた。マザーズの審査はわずか一ヵ月で、全責任を幹事証券会社に押しつけている、と東京証券取引所が批判された。

これほど問題視されているマザーズに九九年十二月二十二日、株式公開したリキッドオーディオージャパンのオーナー、黒木は「光通信の重田康光の人脈の一人」と言われており、黒いうわさに包まれている。「光通信の幹事が野村証券なので、黒木も野村を主幹事としてリキッド社の大株主のスーパー・ステージや通信販売会社のカタログーシティージャパンの株式公開を目論んでいる」(新興市場に強い証券会社の役員)。