不安定で流動的な雇用

昨今の雇用情勢の特徴として、真っ先にあげられるのが「不安定さ」「流動性の高さ」である。かつての日本では正社員・終身雇用体㈱が維持されていたので、働く場所は非常に安定していた。「これから先も職場があるだろうか」と心配している人などまずいなかった。その背景には、経営者や労働者が一体となって終身雇用を守るという姿勢が強かったということもあるが、そもそも経済が右肩上がりだったことが大きい。長期間にわたって経済成長が持続していたため、企業経営は安定していたし、銀行も潤沢に資金を提供することができた。だからこそ、雇用も安定していたのである。

それに加えて、石油ショック円高不況などの不況も短期間だった。短期間の不況の場合、露骨なクビ切りなどしなくても苦境を乗り越えることができた。しかし、この状況は今や根本的に変化している。まず、日本経済は長期間の不況を経験するようになった。もはや高度経済成長が夢である以上、これまでのような右屑上がりを前提としたシステムは維持できない。また、日本経済の地位が低下して競争力を失ったことも大きな違いだ。例えば、日本の実質成長率は1980年代の3・8%から1990年代の1・5%、2000年代の1・7%へと低下し、その間、世界のGDPに占めるシェアは1994年の17・9%から2007年の8・1%へと低下しているだけでなく、一人当たり国内総生産(GDP)も経済協力開発機構OECD)加盟国中の2位(1993年)から18位(2006年)と順位を落としている(経済財政諮問会議「構造変化と日本経済」専門調査会報告 2008年7月2日)。