家賃保証の「マイホーム借上げ制度」とは

担保価値が低い中古住宅。だが、その中古住宅の新しい活用方法が生み出されている。移住・住み替え支援機構が行っている「マイホーム借り上げ制度」だ。家を貸したい五〇歳以上のシニア層から家を借り上げ、二戸建てに住みたい子育て世代に貸す。その際、貸主は家賃の一五%を手数料として引かれるものの、一生涯の家賃収入が保証される。一方で、借主は敷金・礼金なしで借りることができる。移住・住みかえ支援機構は二〇〇六年に、国土交通省の支援を受け、大和ハウス京王電鉄など一三の民間企業が参加して設立された。

「マイホーム借り上げ制度」を考え出したのは、機構の代表理事立命館大学大学院教授の大垣尚司さんだ。「六〇歳以上の方の総資産の六割が自宅だという現状で、これを活用しない手はありません。ところが、家を売るとなると、まだ一〇年以上もつはずの家でも、日本の中古市場ではタダ同然になってしまう。それなら、持っている家をお・金に替えてあげるということで、この制度を考えました」この「マイホーム借り上げ制度」を活用して、埼玉の一軒家から東京のマンションに住み替えた人がいる。この男性(六〇歳)は、持ち家を貸して、その家賃収入をマンションのローン返済に充てていた。

五年前に奥さんを病気で亡くし、二人の息子も独立。男一人で、二七年暮した一軒家を持て余していたという。マンションに住み替えたいと思っていた時に、「マイホーム借り上げ制度」を知ったそうだ。「やっぱり、家賃を保証してくれる、借り手がいなくても家賃を払ってくれる、そこが良かった」と話している。一方、この男性がかつて住んでいた埼玉の一軒家は、どうなっているのか。五二坪の土地に三一坪の家。そこには、五〇代の夫婦と娘さんが暮していた。三人家族で住むには十分な広さだ。照明や家具なども、元からあったものを、そのまま使っている。風情のある庭も、以前のままだそうだ。これで、家賃は八万七〇〇〇円。

「広々とした部屋が欲しかった。築年数が古くても、ゆったりした方がいい。古い建物の方が、ゆったりとした時代に建てられているので」ご主人は、満足そうだった。移住・住みかえ支援機構の仕事は、家を貸したいという人と借りたい人をつなぐこと。機構の斉藤道生さんは、貸したい家の査定を行っている。その日、斉藤さんは東京・八王子のある家を訪れた。家の持ち主は七〇歳過ぎの男性で、すでに山梨県で暮している。誰も住んでない家を貸したいと考えたのだ。清里から戻ってきた男性の案内で、家の中を細かく見て回る斉藤さん。「うわあ、二階も広いなあ。部屋数は少なくても、生活にはいいんじゃないかと思いますね」リフォームが必要な箇所が出てきた場合は、持ち主が費用を負担して修理することになる。斉藤さんは、部屋の隅々まで見て回り、チェックシートを埋めていく。

「環境はすごくいいですね、駅からも近いし。お化粧直しをすれば、十分に現代の人たちのニーズに合わせられますよ」また一つ「マイホーム借り上げ制度」の活用者が誕生しそうだ。千葉県にある公団住宅に住む谷岡典子さん(三一歳)は契約社員として働いている。一昨年結婚した谷岡さんは、派遣社員で働く夫との二人暮らしだ。しかし、夕食はいつも一人。「普段だと月曜の朝に会って、旦那に次に会うのは木曜日ですね」夫とすれ違いの生活をしている理由は、谷岡さんの仕事にある。谷岡さんは、海外からの様々な問い合わせに応対する国際電話のオペレーターなのだ。英会話の能力が求められる専門性の高い仕事で、勤務時間は深夜一一時から朝七時まで。体力、集中力が続かないと、勤まらない。谷岡さんは、毎夜必ず数種類のサプリメントを、まとめて飲んで出勤する。