「価格破壊」始まる

農協はいま地域農協の合併によって、急ピッチで組織の簡素化を進めている。現在の状況では、非農協系の飼・肥料、資材の販売会社との競争に勝てない。都市銀行地方銀行との競争に勝てない。スーパーやコンビニの農村地域への進出に対抗できない。農協が合併によって体力を強化しなければならない具体的な原因はいろいろある。しかし、本質的には、民間企業がいち早く情報伝達の効率向上を実現し、情報システムの力で物流を徹底的に合理化したため、古い時代の組織をいまだに抱えている農協は競争力を失ったということである。情報技術が発達すると自動的に社会に浸透するのではない。競争があるので、しかたなく、しぶしぶ受けいれる。

農協のように非効率になった組織は社会にたくさんある。どんな業界をみても、地域の業界団体、全国連合会と階層をなした組織になっている。行政組織そのものがこういう階層を成している。情報の伝達がたいへんだった時代にはこれが最適だったのかもしれないが、いまやほとんど人件費と事務所経費の無駄遣いでしかない組織である。しかし、競争するライバルがいないから、その非効率になった体系に気づかない。たまたま農協はライバルがあるので、非効率な体質が早く表面化したのである。繰り返すが、ライバルとの競争こそ、情報システムを高度化する原動力である。マルチメディアの進展によってさらに競争条件は厳しくなる。BPRは全国型組織にさらに浸透してゆく。

流通分野では、多段階の卸売−小売のプロセスが簡略化された。情報システムが未発達の時代には、生産者の情報や生産物はこの多段階のプロセスを経てしか、消費者に届かなかった。しかし、情報処理の仕組みの発達で、生産者の情報や物流を一貫してコントロールする新タイプの流通業者が現れ、こうした多段階を簡略化し始めた。一群の「価格破壊者」である。既存の流通の仕組みをバイパスして、商品が消費者に届く。この流通業者が進める徹底的なBPRによって飛躍的なJストダウンが達成された。旧来の多段階の体系は完全に競争力を失ったのである。

ここでは詳細を述べる余裕はないが、食料品、医薬品、衣料品などさまざまな業種で問屋がなくなってきた。なくならないまでも、合併、業態変化でこの荒波を乗り切り、かつての問屋のまま生き残るところはない。道路網の発達でトラックによる一日の到達距離が飛躍的に延び、産地から消費地までの距離が縮んだので、その間でモノを中継していた問屋の機能が失われたからだ。同時に、消費地から産地へと逆流していたマーケット情報の流れも、情報ネットワークの発達でその距離が縮んだ。モノ、情報の双方の流れの効率化によって従来の問屋機能は残る余地がなくなった。

代わりに台頭したのがスーパーやコンビニチェーンである。最近ではダイスカウンターと呼ばれる企業群も登場している。スーパーやコンビニは情報システムの配備によって、店頭で売れる商品の情報をリアルタイムでつかみ、これを生産者にいち早く伝達する仕組みを作り上げた。もちろん伝達手段は電子ネットワークである。人間による途中の情報中継拠点はできるだけパスする。できるだけ多く中継点を省いたスーパー、コンビニが競争の勝者である。